絵本専門士のえほんのはなし。~その1「絵本専門士」ってなんだろう~

みなさん、はじめまして。絵本専門士の水野有子です。これからこのコラムで絵本のおはなしをさせていただくことになりました。よろしくお願いします。

まずは「絵本専門士」という資格を簡単に紹介します。絵本専門士とは、絵本に関する高度な知識、技能、感性を備えていると認定された絵本の専門家です。2021年現在、絵本専門士は全国に約400名、道内には14名、十勝では私ひとりです。絵本専門士はたくさんの絵本に精通しているわけでも、読み聞かせがものすごく上手なわけでもありません(もちろんそういう方もいらっしゃいますが)。「絵本」というメディアそのものについて体系的な知識がある人、と捉えていただければと思います。

そうはいっても少しわかりづらいですね。ひとつ例を紹介したいと思います。

赤ちゃん絵本のパイオニア「松谷みよ子あかちゃんの本」シリーズの『いないいないばあ』(松谷みよ子 文、瀬川康男 絵、童心社、1967年)は、だれもが目にしたことのある絵本のひとつではないでしょうか。にゃあにゃ(ネコ)やくまちゃんが「いないいない」、ページをめくると「ばぁ」と顔を出すという、非常にシンプルな絵本です。

50年以上も読み継がれているこの絵本、「定番だから」「ロングセラーだから」ではくくれない、“長く愛される理由”があります。

絵本に限らず、見開きの一方に文字(本文)、もう一方に絵や写真がある場合、別の場面でもその配置は同じであることが一般的です。でもこの絵本(本文縦書きの右開き)は、左側にある「いないいない」の絵をめくったすぐ裏(次の場面の右側)に「ばぁ」の絵が配置されています。これは赤ちゃんの発達のひとつである「追視」を考慮しているから。ページをめくるその動きにつられて、赤ちゃんの目線は右に移ります。そこで動物たちが「ばぁ」と顔を出すことで、その驚きがより鮮明に伝わる仕組みとなっています。

ほかにも、(1)動物たちの顔を印象づけるため正面性を確保する、(2)白目と黒目にコントラストをつけることで注意を引き、動物たちと必ず目が合うようにする、(3)日常生活の色調に溶け込むようあえて全体の彩度を低くする、など、初めて絵本に触れる月齢の低い赤ちゃんのためにさまざまな配慮がなされます。

一冊の絵本が子どもたちに届けられるまでには、作者をはじめとした“絵本に関わる人たち”のこうしたたくさんの配慮や工夫があります。絵本専門士養成講座で学んだのは、そうした“想い”の数々です。その視点を持って絵本と向き合うと、これまでとは違った面白さ、作者の意図や隠されたメッセージ、そして時には作者も意図しなかったであろう思いがけない読み方や捉え方と出合うことができます。

そんな絵本の魅力を伝え、絵本をより深く楽しむ機会を創出する。それが私なりの“絵本専門士”です。

次回からは、絵本専門士ならではの“絵本観”を紹介していきたいと思います。次のテーマは【「良い絵本」ってなんだろう】です。お楽しみに!

筆者の紹介

絵本専門士 水野 有子さん

絵本専門士4期 十勝在住
十勝初にして唯一の絵本専門士。
3つの公共図書館勤務を経て、現在は帯広大谷短期大学附属図書館に勤務。司書を務める傍ら、知的財産管理技能士や福祉住環境コーディネーターなどの資格も取得。
休日を利用し、私設移動図書館「えほんマイクロライブラリー」で地域に絵本を届ける活動をしている。

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